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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)169号 判決

事実及び理由

審決を取消すべき事由の有無について判断する。

(1)  成立に争いのない甲第五号証の一(審判請求書)及び二(昭和五〇年一〇月四日付手続補正書―全文補正明細書―以下、「明細書」という。)によれば、本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には、「従来、遮光幕を塩化ビニールその他の合成樹脂で成形する場合、遮光幕全体に顔料、染料を均一に含浸成形することは不可能なために、遮光幕に多数の染むらによる透明のピンホール状のものが生じて遮光効果のきわめて不完全なものであつた。この考案は上述の欠点を解決したもので」(「考案の詳細な説明」冒頭から六行目)あるとの記載があるところから、本件考案は、従来合成樹脂粒の不溶解、染色不均一、色素の不混合、異物混入などによつて合成樹脂の遮光幕には必然的にピンホール状の透明孔状部が発生してしまうために、遮光効果が不完全なものであつたという欠陥をなくし、完全な遮光効果のある合成樹脂の遮光幕を得ることを目的もしくはその技術課題として、「実用新案登録請求の範囲」記載のとおりの遮光幕としたことが認められる。

そして、本件考案は、「遮光性を有する薄板製遮光フイルム1、2を重合し、遮光フイルム1、2に生じている染むら透明孔状部3、4を染色部分で閉塞せしめた」構成の遮光幕とすることによつて、明細書の次の記載にみられるとおり、前記の如き従来の遮光幕の欠陥を解消し、簡便でしかも大量生産に適した方法で遮光効果の完全な遮光幕を得ることができたという顕著な効果を奏するものと認められる。

すなわち、本件考案は、「遮光フイルム1、2で生じた染むらによつて生じた透明孔状部3、4が他の染色部分によつて閉塞され、遮光フイルム1、2に生じたピンホール状透明孔状部3、4は遮光フイルム1、2の不透明部によつて閉塞されるので、確実に透明孔状部3、4は閉塞され、遮光幕の遮光効果の完全を期すことができる。即ち遮光フイルム1、2に生じる透明孔状部3、4はその面積が染色部分と比較して極小であり、かつ各遮光フイルム1、2の同位置に生じることもほとんどあり得ないため、遮光フイルム1、2を重合した場合、その透明孔状部3、4が一致する確率は絶無に等しいから透明孔状部3、4は完全に閉塞され遮光度を高め暗幕として十分な遮光性を有するものである。従つて、遮光フイルム1、2が互いに他のピンホール状の透明孔状部3、4を閉塞して完全に遮光するから、例えば写真現像用の暗室その他居間、書斎、風呂場等を直ちに完全な暗室とすることができ、D・P・Eの操作は勿論スライドやシネ映写にも好適である。また構造がきわめて簡単であるから安価に大量生産に供することができる等の効果がある。」(明細書第二頁一〇行ないし第三頁一二行目)。

(2)  一方、審決の引用に係る各引用例の技術内容を検討すると、第一引用例の技術は、テーブルクロス、壁紙、椅子張、スリツパー、草履等の履物、鞄、袋物等に用いられる印刷模様入ビニール系樹脂シートの製造方法であるが、従来、この種のシートを製造するには無地の樹脂シートに各種模様を直接印刷する方法が採られてきたところ、この方法では、シートが肉厚で弾性があるために印刷が容易でなかつたので、これを解決するためにシートより薄いフイルムに模様を印刷してこれをシートに重ね合わせて接着する方法を採用したものであり、これによつて印刷模様を樹脂の内部に埋め込むことができ、摩擦等により印刷模様が損傷することもない効果を奏するものであることが認められる(成立に争いのない甲第二号証―特公昭二八―五〇三六号公報)。また、第二引用例のものは、真珠色が強く輝く鮮明で美麗な模様を有する合成樹脂シートを得るために透明または半透明の合成樹脂に真珠顔料を練り込んでシートに成形し、このシートに凹凸模様をつけ、その裏面に不透明塗料層を塗着したところの合成樹脂シートであることが認められる(成立に争いのない甲第三号証―実公昭三二―八三七七号公報)。

(3)  以上によつて本件をみると、各引用例の技術内容は右認定のとおりであるから、各引用例の目的及び構成は、本件考案のそれと著しく相違しており、これらの引用例に前叙の如き本件考案の目的、構成及びこれに基づく効果が示唆されているとみるのは相当でないというべきである。

審決は、「前記引用例にも記載のとおり、二枚またはそれ以上のフイルム(またはシート)を重合することにより、一枚のフイルムでは得られない性質及び模様を有するフイルムを得ることは普通に行なわれており、また、これが通常行なわれているフイルムをラミネートする目的及び効果である。」(審決二丁表二行ないし八行目)と判断し、本訴においても被告は同旨の主張を繰返しているが、本件考案のように同等同格の二枚の比較的薄いフイルムを重合して、一枚のフイルムでは得られない性質を有するフイルムを得るという技術思想は、各引用例に示唆されているとは認められない。被告の主張は採用できない。

また被告が、本件考案の出願当時普通に行なわれておるとする一般的な技術から、本件考案をきわめて容易になしうるとすることもできない。

そうすると、本件考案は、第一、第二引用例の記載に基づいてきわめて容易に考案することができたものとした審決の判断は、原告主張のとおり誤りであるから、審決は違法として取消を免れない。

以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当であるので、これを認容する。

〔編註その一〕本件における考案の要旨および審決理由の要旨は左のとおりである。

本件考案の要旨

適宜の大きさの塩化ビニールその他の合成樹脂で成形した黒色その他遮光性を有する薄板製遮光フイルム1、2を重合し、遮光フイルム1、2に生じている染むら透明孔状部3、4を染色部分で閉塞せしめたことを特徴とする、遮光幕。(別紙図面(一)参照)

審決の理由の要旨

(一)  本件考案の要旨は、前項のとおりのものと認める。

(二)  これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特公昭二八―五〇三六号公報(以下、「第一引用例」という。)には、二枚またはそれ以上のフイルム(またはシート)のそれぞれに別個の模様または着色を付与し、それを接合して複雑美麗な模様を有するシートが得られることが記載されている。また、同じく原査定の拒絶理由に引用された実公昭三二―八三七七号公報(以下、「第二引用例」という。)には真珠顔料を混入したシートと他の模様及び不透明塗料層を設けたシートを積層した模様入合成樹脂シート(別紙図面(二)参照。)が記載されている。

そこで、本件考案を前記各引用例記載の技術内容と対比して検討する。

本件考案は黒色等に着色した塩化ビニール樹脂からなる遮光フイルムを重合した遮光幕である点で前記各引用例とは相違するが、請求人(原告)も認めるとおり、塩化ビニール樹脂フイルムをカーテンにすること自体はよく知られており、また、透明なガラス、フイルム等を黒色等に着色し、遮光性にすることも通常行なわれているところ、前記引用例にも記載のとおり、二枚またはそれ以上のフイルム(またはシート)を重合することにより、一枚のフイルムでは得られない性質及び模様を有するフイルムを得ることは普通に行なわれており、またこれが通常行なわれているフイルムをラミネートする目的及び効果であるので、一枚のフイルムからなる遮光幕では透明孔状部があつて不都合な場合に、これに一枚またはそれ以上のフイルムを重合して、その透明孔状部を染色部分で閉塞し相補うことは適宜に行なうことができる範囲のものと認められ、格別の工夫があつたものとは認められない。

したがつて、本件考案は前記各引用例の記載に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないものと認められる。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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